【書籍】「モチベーション3.0 持続する『やる気』をいかに引き出すか」

「モチベーション3.0 持続する『やる気』をいかに引き出すか」
ダニエル・ピンク著(大前研一訳)/講談社 2010年7月

ベーシック・インカムの話をすると、かならずと言っていいくらい、「でも、人々が働かなくなってしまうのではありませんか?」という疑問が出されるものだ。それに対して、人間には「内発的な動機付けがある」という実証的な答えを出してくれる本が現れた。

『モチベーション3.0』(原書名 "Drive")は、人の行動を動機づけているのは、報酬や罰や目標設定ではないのだということを、さまざまな実験データを引用しながら示してくれる。

たとえば、第2章「ムチとニンジンが効かない7つの理由は」

  1. 内在的な動機を消滅させる

  2. 達成度を下げる

  3. 創造性を潰してしまう

  4. 高邁な行動を閉め出す

  5. イカサマ、安易な結果出し、不道徳な行動などをもたらす

  6. 中毒になる

  7. 近視眼的な考えをもたらす

を挙げている。

本書はビジネスの世界の人たちを念頭において書かれたものだが、ベーシック・インカムがある社会を考えるときにも、なくてはならない本である。

  • 文責:古山明男

【雑誌】現代思想2010年6月号「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平」

「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平 ― 社会サービス充実の財源はある」
小沢修司/現代思想2010年6月号

「社会サービス充実の財源はある」、という副題がついている。日本でのベーシック・インカム提唱のパイオニア的存在である筆者が、ベーシック・インカム以外の現物社会サービスの重要性を説く。

筆者はベーシック・インカムの必然性を次のような社会・経済状況から捉える。

「働くことで所得を得て生活する、すなわち労働と所得を一致させている今日の資本主義社会における生活原理が機能しえなくなり、労働と切り離してひとまず生活の安定のために所得を保障しなければ資本主義経済は立ち行かなくなる状況に至っている」

「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平」のテーマは二つある。一点目は、BIが支給されたとしても福祉、医療、教育などの社会サービスを切り捨てないことである。

もう一点は、45%の所得税率で、一人月8万円のベーシック・インカムと現物社会サービスの両方が成り立つことを、具体的に数字を挙げて説明していることである。

「BIのある社会でも、社会サービスの重要性は変わることはない。」

これが、筆者の力説するところである。

ベーシック・インカムは、労働側からも経営者からも受け入れられやすい性質を持っている。しかし、新自由主義的立場からは、ベーシック・インカムがあるのだからと、保育、医療、教育などの社会サービスをなくして自己負担する発想が出てくる。それでは、ベーシック・インカムは従来サービスだったものの費用にあてられ、所得保障にはならないであろう。

「所得保障と社会サービスは車の両輪として必要である」

筆者は、早くから所得税を財源としてベーシック・インカムが成立することを示していた。基本的に、所得税を45%の定率とすることで、一人あたり月8万円、総計年115兆円のベーシック・インカムの財源はある。

これに対し、所得税を全額ベーシック・インカムにあてるなら、従来の所得税収16兆円分はどうするのだという疑問が出されていた。その疑問に応えて、今回、国民年金、児童手当、雇用保険、生活保護などの国庫負担分が不必要になるぶんの約8兆円と、年金や雇用保険などの事業主負担分18兆円の負担を継続することにより、よりいっそうの社会サービス充実が可能である、という設計が出て来た。

今回の説明でも、年金がすべてベーシック・インカムに置き換えられて、年金の大幅切り下げになる人たちが大量に発生するのではないかという疑問は残る。

しかし、筆者がベーシック・インカムの具体的な数字を提出し、今回さらに練り上げを行っていることの意義は、非常に大きい。ベーシック・インカム実現の議論に核を提供し、多くの人の議論参加の道を拓いている。

  • 文責:古山明男

【雑誌】中央公論2010年6月号「ベーシックインカムが貧困を解消する」

「ベーシックインカムが貧困を解消する ― 生活保護よりすべての人に基礎給付を」
原田泰(はらだゆたか)/中央公論2010年6月号

こういう立場の人からもベーシックインカムが出てくるようになったのか、という論が現れた。中央公論2010年6月号に、原田泰氏が書いた「ベーシックインカムが貧困を解消する」である。

原田氏は、大和総研専務理事チーフエコノミストである。エコノミストらしいエコノミストといったらわかりやすいであろうか。経済の広い範囲にわたって発言のある人である。

この論の書き出しは、「これまでの日本の生活保障は、企業が中心になってきた。しかし、日本の企業はそのような重荷に耐えかねるようになっている。そもそも、企業とは利益を得て、税金を払う組織であって、そこに共同体的な役割を担わせようというのは無理がある。むしろ、政府が直接、人々の生活を保障したほうがよいのではないだろうか」

これは、日本の企業の変化をよく捉えている。従来型の企業別生活保障を続けるならば、日本社会には貧困にあえぐ人たちがたくさん生まれるであろう。それは既に実際に起こっている。

公共事業の効果には疑問がある。「国家はつまらない仕事を作るより、直接、人々の所得を保障してしまったほうがましなのではないだろうか。」

原田氏の論考は、ベーシックインカムが財政的に実現可能であることを具体的な数字で示していることに意義がある。負の所得税タイプとすべての成人タイプの二つの具体案がある。

まず、低所得者にのみ生活費を給付する負の所得税タイプの場合は、年収200万円未満の873万人(推定)に年49万円を支給するとして、総額が4.3兆円ですむことをあげる。

つぎに、ベーシックインカムについては、次のような計算をしている。毎月7万円を、20~64歳の日本国民全員7,476万人にBIを支給したとする。その支出は63兆円。ただし、子どもは子ども手当を存続。65歳以上は現状の年金制度を維持とする。この財源には30%の所得税および基礎控除、配偶者・子どもの扶養者控除の廃止をあてる。これによって79兆円の税収がある。筆者は、さらに入念に費用を算出するが、この数字だけをもってしても、ベーシックインカムが現実的なものであることは一目瞭然だろう。

原田氏は「ベーシックインカムは労働意欲を阻害するか」という問題を次のように論じる。

まず、原田案では所得の低い人にも所得税が課税されることについて、現行の生活保護で働くと給付水準を引き下げられる労働阻害効果より、はるかによいとする。

行政コストについては、現在でも完璧な所得補足はできておらず、その中で新しい税率を課せばよいこととする。

ベーシックインカムが夢を追って成功しない若者を増やすという批判に対しては、現在でも弁護士になれない法科大学院、研究者になれないオーバードクターなどがある。青春彷徨の機会を作り出すことはむしろ積極的に評価する。社会が人々のあらゆる試みに最低限の報酬を払うことは悪くないこととする。

能力ある人々が非世俗的満足を求めるようになるという問題には、経済的成功がすべてではなく、世界はこのような人たちで幸福度を増してきた。

国家は貧困を解消できる、という力強い論である。

  • 文責:古山明男