『「POSSE~特集マジでベーシックインカム!?」に応答する その2 萱野稔人さんの場合。』ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

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萱野さんへの応答を重ねていこうと思い、前回のメルマガでは、市民教育の入り口で終わった。BIと教育および市民教育の話へとつないでいこうと考えていたが、その前に萱野さんの問題提起には重要なご指摘がもうひとつあるので、そちらを先に論じておこう。その方が、BIと教育の話をする際にも都合が良さそうである。

萱野さんは「国家による公共投資がなくても市場経済そのものは回っていくとー無意識にせよー考える点で、BIは資本主義を市場経済に還元してしまう、~(後略)」と述べている。このBIは資本主義を市場経済に還元してしまう、というところの論理はいまひとつ分かりにくいのだが(BIを公共投資と考える論理もあるだろうと思う)、たしかに、BI論者の大部分が、資本主義・国家・市場の関係についての弱点を有しているのは事実だと思う。また、BI論者に限らず、資本主義と市場経済をごっちゃにする論者も多い。例外としては、関曠野さんの社会信用論を基本としたBI論(および関曠野さんの資本主義論)があるが、今回は、関さんの論理にも学びつつ、萱野さんの問題提起を受けて、自分なりの国家・資本主義・市場とBIの関係について考えてみたいと思う。

この関係に含まれる論点は、大きく分けて、ふたつある。第一は、国家(国家権力)とBIの関係。第二に、資本主義論としての国家・市場・BIの関係である。まず、第一の論点について。萱野さんは、「BIは、「労働からの解放」は国家をも労働から解放してしまうんです」と述べている。これは、私なりに解釈すれば、国家の「義務」を限りなく縮小してしまう、ということだろう。確かに、新自由主義的なBI論はこの立ち位置だ。しかし、筆者は新自由主義的BIについては反対である。すなわち、BIによって国家の「義務」を限りなく縮小することに反対ということである。ここで問題になるのは、国家の「義務」とは何だろうか?ということだろう。これを論じるためには、国家論(あるいは憲法論)にふみこまなければならないが、ここでは、国家の義務とは国民の人権擁護であり、国家はそのための権力行使機関であると定義しておきたい。筆者は、人権ということを基底にして、BI給付を受け取る権利は基本的人権だと主張してきたし、また、人権擁護という点からいえば、BIという普遍的現金給付も福祉的現物給付もどちらも必要な場面がありうるとも主張してきた。ただ、これには、反論もある。

たとえば、ニッセイ基礎研究所の遅澤秀一さんは「人的投資としてのベーシック・インカムの可能性について」のなかで、誰もがもつ自然権に立脚するBI理念は思想的あるいは政治的立場を異なる人々を納得させることは難しいだろう、と述べている。確かに「自然権」のみを振り回すだけでは、BI反対論者は納得しまい。 http://www.nli-research.co.jp/report/research_paper/2010/rp10_004.html

筆者はその「自然権」を補強する論理を最近見つけた。それは、フェミニズム系の論者エヴァ・フェダー・キティの『LOVE'S LABOR Essays on Women, Equality,and Dependency(『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』白澤社発行・現代書館発売)である。

キティは「自立という虚構にメスをいれる」といい、「誰もがお母さんの子ども」ということで、人は、生まれてから一方な依存状態にあり、その後、成人していく過程で「相互依存関係」になり、人生の終末期において(または重い病気などで)依存的になり死んでいくーーと述べている。この生まれたときに、「一方的な依存」にある状態では、それをささえるケア提供者や「依存労働者」(依存者の生活の基本的ニーズを満たすようケアする人)が存在する。私たちは、自由で理性的な責任ある自立した主体を形成できていくと考えているが(従来の自然権の発想)、実は、それは、常に「一方的な依存」から出発している「事実」を忘れている。そして、国家は「被依存者」そして「被依存状態」が尊厳ある存在であるような「義務」を負う。この「義務」を実行するひとつの有力な手段がBIなのだ。「誰もがお母さんの子ども」として愛される!ためにBIはある。これを決して理想主義的に語っているわけではない。このことが、部分的で、限界はあったにせよ実践されたために人類は曲りなりに生存してきたのだ。

(この稿続く。一部のフェミニストからは、キティの論理は、性役割固定化という批判がありうるが、そのことについてキティは、詳細に反論している)

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