BIメールニュースNo.139  2012.3.10発行 バックナンバー ~普遍的ベーシックインカム(UBI)への「脇道」的アプローチ(4) 鈴木武志~

バックナンバーの公開は発行後1ヵ月後になりますので、メールマガジンでのご購読をおすすめします。

BIメールニュースNo.139  2012.3.10発行

【1】翻訳「リミニでの我がオスカー授賞式 マイケル・ハドソン」

【2】普遍的ベーシックインカム(UBI)への「脇道」的アプローチ(4)                              鈴木武志

【1】翻訳「リミニでの我がオスカー授賞式 マイケル・ハドソン」

2月24日~26日に、イタリアの町リミニ(フェリーニの生まれ故郷で有名)で、ケインズ左派のマイケル・ハドソンらの論者が集まり通貨改革などを論じたMMTサミットが開催されました。

2100人もの聴衆が押しかけたというYouTubeでのサミット会場風景映像と、そのハドソンの報告が翻訳出来ましたので、お伝えします。

ベーシックインカム・実現を探る会:最新情報 - 【翻訳】リミニでの我がオスカー授賞式 マイケル・ハドソン

MMTとは、「現代金融論」(Modern Monetary Theory)のことで、ネオリベラリズムと対置される金融理論です。それを2100人ものイタリア人が関心を持っているという点が興味深いです。日本よりも欧米の方が金融恐慌の被害は甚大であることの現れでしょう。

マイケル・ハドソンをはじめとするMMTは、中央銀行による国債直接引き受けを行い、経済成長と雇用の促進するために資金をつぎ込むことを訴えているようです。

【2】普遍的ベーシックインカム(UBI)への「脇道」的アプローチ(4)                              鈴木武志

~東日本大震災被災者への支援~

東日本大震災被災者への期限付き所得保障が急いで実施されるべきである。原発事故による被害は原賠法による補償が行われるので、地震・津波・火災に絞って考えるが、被災者数などのデータはなかなか見つからないが、家を失って、仮設住宅・自治体の借り上げ住宅などで暮らしている人が、支援対象者として考えられる。しかし、このデータも見つからない。

政府は3万戸を目標に仮設住宅の建設を行っているので、この仮設住宅居住者3万世帯、借り上げ住宅居住者、親類縁者宅同居者、自力再建者が仮が同じく仮に3万世帯、県外転出者が仮に1万世帯として、合計10万世帯(50万人)と仮定しよう。

これまでに、より広い範囲の被災者への義捐金からの支給が行われ、住宅については被災者生活再建支援法(全壊世帯に最大300万円)のもとで手当されていくので、問題は生活費である。

とくに、収入の道を閉ざされた自営業の生活問題は深刻であり、かつての被雇用者は支給期限が臨時に延長されてきた雇用保険からの支給が期限切れとなりつつあるなかで、深刻な課題である(再び雇用保険の特例として支給期間を延ばすことも考えられるが、雇用保険制度の趣旨から外れるものとなっていく)。

この解決のためにUBIを要求する動きもある。ベーシックインカム:実現を探る会などのグループは、被災地のすべての人々に5年間に渡って月額15万円を無条件で個人別に支給することを要求している。この「無条件・個人別」は、家族がバラバラになっているケースが多く、就労などの状況も流動的であることを考えると合理的だ。この案では「すべての人々」が対象として、岩手・宮城・福島3県の全人口567万人を想定しているが、同じ県内でも被害がほとんどなかったエリアも多いことを考えると、「全人口対象」では、社会的理解が得られないだろう。上記の50万人ならば理解されるのではなかろうか。個人別であることを考慮すると月額15万円は少々高すぎる。生活保護などの水準を勘案してベーシックインカムを想定した小沢修司氏の試案8万円ではどうだろうか。その場合の費用は、月額80千円×500千人=40,000千円。年額は40,000千円×12カ月=480,000千円(4.8億円)である。5年間でも24億円である。

探る会などの案では、復興費用全体、原発事故補償などを含めた40兆円について、特別国債の発行と日銀の直接引き受けを提案しているが、こればベーシックインカム要求から離れた問題設定であり、基本的理念の議論に時間がかかり、火急の用に間に合わない。

年4.8億円程度の規模であれば、復旧のための補正予算(第一次約20兆円)の組み替えの範囲内でも実施可能ではないか。

この復興予算は、阪神淡路大震災をモデルにしており、神戸市長田区に見られるように、道路・公園が整備されたは良いが、新しい商業施設の2階や地下にはテナントが入っておらず、「シャッター通りを復旧するどころか、シャッター通りを新たに造ったのだ。新永田駅から離れた一帯はゴーストタウンと見まがうばかり。もちろん、このゴーストタウンの店舗には湯水のごとく復興予算が使われている」(原田泰「復興予算『20兆円』で東北がゴーストタウンになる!」(週刊新潮2011・7・28)。

なお、原田氏は「自宅に住めないような深刻な被害に遭ったケースは50万人程度」と推定し、こうした人々の物的被害の復旧に仮に半分を公費負担するとして2兆円、公的資産の復旧に2兆円、合計4兆円で済むはずのところに20兆円もの公費を投入するのは、長田町ゴーストタウンの再現になることを懸念している。それよりも、「復興予算は『個人』にバラまけ」として、「被災者一人当たり4000万円(20兆円÷50万人)も使ってゴーストタウンを造ってしまうのなら、1000万円に削減して個人財産の(自主的な)復活への支援に税金を使うことのほうが有効だ」と主張している(同上)。

~「裏道・脇道からのUBIへの接近」の戦略~

ヴァン・パリースは『ベーシックインカム:21世紀のための簡素で強力なアイディア』において、UBIを特定の型式のものが各国で実現されることを想定している訳ではなく、各国の税金・社会保障の事情、政治状況などに応じた形で実現されるべきものとしている。しかも、「普通選挙権のための闘争と同様に、ベーシックインカムのための闘争は、オール・オア・ナシングの事柄ではない。それは、純粋主義者や、やみくもの崇拝者のためのゲームではなく、何でも屋とオポチュニストのためのゲームである。」と述べている。

正面から堂々とUBIを要求すると同時に、それに一歩でも近づく制度の実現へ、裏道・脇道からもアプローチするのが重要ではないか。日本のBI論者は大いに「何でも屋・オポチュニスト」に徹して、ニーズ対応型の所得保障制度(条件付きも含む)を増やす運動を意識的・戦略的にすすめ、そうした各種現金給付を足し合わせたら実質的に全国民対象になっていくと、「面倒だからニーズ別、条件付きはやめて、全国民へのUBIにしてしまえ」というコースもありうるのではないか。

例えばブラジルでは、子どもの就学を条件とした所得保障から、UBIへの段階的接近がすすみつつある。欧州では、試算調査付きながら、税額控除の形での所得保障が広がってきた、という印象である。

なお、「子ども手当はありがたいが、保育所の空がないので母親が就労を諦める」のでは、何にもならない。こうした現物サービスの種類の拡大、レベルの引き上げにも、BI論者は目を向けて戦うべきでは。全国民へのUBIは実現したものの、「利用できる現物サービスが乏しいので貯金している」などいうのは、UBI論の想定外のマンガ的状況であろう。

(了)

 

鈴木武志

1945年、宮城県気仙沼市生まれ。東京都立大学人文学部中退。学生時代から生協の活動に関わり、大学生協連、コープとうきょう、日本生協連などを経て、リタイア。

ベーシックインカム国際情報

「私のベーシックインカム論」大交流

 

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