BIニュース Vol.1 2009/5/24号

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BIニュースは国内外のベーシック・インカム関連の動きを速報し、ミニ解説をつけて紹介していくコーナーです。

今回は、直接ベーシック・インカムのニュースを取り上げるわけではありませんが、それに近い考えである「給付付き税額控除」が実現の俎上に上がったという、重要だけどマスコミでは大きく取り上げられなかったニュースをこちらではピックアップします。

給付付き税額控除、導入検討へ=「安心保障番号」創設も

http://www.jiji.com/jc/c?g=eco_30&k=2009051900009

政府は18日、減税と低所得層への給付金を組み合わせた「給付付き税額控除」制度の導入を検討する方針を固めた。子育て世帯やワーキングプア(働く貧困層)にターゲットを絞った負担軽減策と位置付ける。社会保障番号と納税者番号の機能を併せた「安心保障番号」創設も検討し、6月に決定する「経済財政改革の基本方針(骨太の方針)2009」に反映させる。

給付付き税額控除は、納税額が少なく、減税の恩恵が少ない低所得層や子育て世帯に減税の代わりに給付金を支給する制度。生活支援に加え、低所得者ほど税負担が重くなる消費税の「逆進性」を緩和する役目も果たす。給付の対象は年収約250万円以下の低所得層となる見通しだ。

このニュースでは、主語が「政府」になっていて、主体があいまいなのですが、次の記事ではそれが、経済財政諮問会議であることが明確になっています。

働く若年貧困層対象の給付提案へ 経財会議民間議員

http://www.asahi.com/politics/update/0519/TKY200905180393.html

経済財政諮問会議の民間議員は19日の会合で、低所得の若者への支援策拡大を提言する。比較的高齢者に手厚かった国の支援を、若年層向けにも拡充すべきだとし、所得が低いのに社会保険負担が重い人々へ一定額を給付する枠組みを提案する。必要な財源は税制改革で確保するよう求めており、今後の議論のきっかけにもなりそうだ。

民間議員は提言で、日本では「若年世代への人材投資が低下し、雇用の不安定性が増している」とし、主要国のなかでも保育や就学関係など若年層への給付が少ないと指摘。若年層のフリーター増加や低所得者の結婚比率の低さが目立つとする。

年間収入が250万円以下の世帯でも、年15~30万円程度の社会保険料などの負担を強いられ、本意でない非正規就労者らが「働く貧困層」化。こうした層の支援のため、「給付付き税額控除」の導入を提言する。

給付の対象は、課税最低限以下の低所得者で、働いていることなどを条件に一定額を給付する仕組み。米国などで導入され、子どもの数に応じて増額する場合もある。ただ、同制度の導入には所得税の制度改正が必要となる。

民間議員はこのほか、経済危機対策に盛り込まれた失業者への支援の拡充や、親の所得が低い学生への授業料免除の拡大なども求める方針だ。

さて、実際、経済財政諮問会議ではどのような議論がなされていたのでしょうか。経済財政諮問会議のホームページを見て確認してみます。

内閣府 経済財政諮問会議

http://www.keizai-shimon.go.jp/index.html

「給付付き税額控除」を提言したのは、吉川洋東京大学大学院経済学研究科教授で、下記の資料では、次のように話しています。

  1. 説明資料:「安心」と「活力」を両立させる生活安全保障の確立に向けて
    http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0519/item6.pdf
  2. (別紙)若年層における所得格差等について(有識者議員提出資料)
    http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0519/item13.pdf

次に2ページの(2)であるが、残念ながら働いてもなかなか暮らしが楽にならない人たちがいる。子育て・低所得者の就業者、そうした家庭を支援する必要があるが、それについては、別紙10ページのグラフをご覧いただきたい。一言で申し上げると、所得水準が低くても、社会保障の保険料等の負担はかなり重い。したがって、例えばこの図でちょうど真ん中辺りの223万円というところをご覧いただくと、税負担は非常に小さいが、社会保険料は25万円を超えるぐらいの負担がある。結果、社会保険料を負担すると手取りは生活保護ラインぐらいになってしまう。こういった問題がある。 したがって、子育て・低所得就業者など、ターゲットを絞った負担軽減の仕組みを検討する必要がある。具体策として、税制抜本改革の中で、例えば給付付き税額控除ということも検討に値するのではないか。
(説明資料:「安心」と「活力」を両立させる生活安全保障の確立に向けて、12ページ)

最後に「3.安心インフラとしての『安心保障番号・カード』の導入加速化」をしなければいけない。目的は、社会保障全体に横串を入れて、きめ細かな制度設計を行う。そのために、こうした番号・カードは不可欠である。別紙の11ページにメリットを記している。こうした番号・カードの早急な導入に向けて、関係機関が一体となって取組みを加速しなければならない。税と社会保障を一体的に設計して、「給付付き税額控除」などを効果的に導入する。そうした目的のためにも、「安心保障番号・カード」は拡張可能なものとして考えておく必要があるだろうと考えている。
(説明資料:「安心」と「活力」を両立させる生活安全保障の確立に向けて、12ページ)

少子化対策、幼児教育が大変大切だという思いは全く同じであるが、2点コメントさせていただきたい。 1つ目は、塩谷臨時議員と小渕臨時議員から幼児教育の一律無償化というようなお話があったが、先ほど説明しました給付つきの税額控除の背景には、社会で支援するのは、とりわけお金での支援については所得水準が低い人、困った人を支えようという考え方がある。そうした点から一律の無償化が本当にいいのかどうか。これは検討の余地がある。
(説明資料:「安心」と「活力」を両立させる生活安全保障の確立に向けて、16ページ)

経済財政諮問会議は、日本国内で市場原理主義を推し進めたと批判されたこともありましたが、与謝野馨氏が音頭をとるようになってから、教育と福祉を重視する方向に考えが変わってきました。

その文脈で「給付付き税額控除」が必要であると吉川教授は提言しています。「給付付き税額控除」は実際の運用面はともかく、所得に応じて分配額を決める負の所得税の考え方に酷似しており、ここまで来れば、ベーシック・インカムの実現は絵空事ではなくなります。何と言っても与謝野氏は、昨年の自民党総裁選に出馬したときに負の所得税をマニフェストに盛り込んでいます。

与謝野氏マニフェスト(負の所得税は8ページ)

http://www.yosano.gr.jp/pdf/manifesto.pdf

ところが、この画期的な動きがあったにもかかわらず、記者会見を見ると、厚生労働省の分割にばかり質問が集中し、「給付付き税額控除」には一言も質問がなされておらず、マスコミの意識の低さと、「給付付き税額控除」への関心の低さが浮き彫りとなっています。

  1. 平成21年会議結果 第12回会議 記者会見要旨:内閣府 経済財政諮問会議
    http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0519/interview.html
  2. 動画でみる与謝野大臣諮問会議後記者会見(第12回)
    http://www.keizai-shimon.go.jp/minutes/2009/0519/movie.html

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