BIメールニュースNo.064  2010.09.11発行 バックナンバー

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BIメールニュースNo.064  2010.9.11発行

【1】『ナミビアのBIパイロット・プロジェクト』      牧野久美子

【2】BIニュース

ベーシック・インカム韓日ネットワーク共同シンポジウムがソウルで開催

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私たち「ベーシックインカム・実現を探る会」は、政治的に中立の立場で、

「すべての個人への無条件な所得の保証」というベーシックインカムを

実現につなげる提言を発信します。

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【1】『ナミビアのBIパイロット・プロジェクト』

牧野久美子

本メールニュースの読者は、アフリカ南部のナミビア共和国で、ベーシック・インカム(以下BI)のパイロット・プロジェクトが実施されていることをご存じの方も多いだろう。

ナミビアのBIパイロット・プロジェクトでは、プロジェクト開始時に対象地域に住んでいた60歳未満の住民全員に一人月額100ナミビアドル(約1200円)のBIが支給されている。60歳以上の住民は、すでに社会年金が無条件で支給されているため、支給対象から除外された。BIの支給期間は2008年1月から2009年12月の2年間の予定であったが、その後も「資金が続く限り」BIの支給は続けられることになっている。

プロジェクトの中間報告書(参考文献1)によれば、BI支給開始後、対象地域においては、子どもの栄養状態の改善、学校のドロップアウト率の低下、犯罪の減少などの変化が見られたという。なかでも、報告書で強調されているのは、BIを元手にスモール・ビジネスを始め、収入増を実現する人が多かったということである。「BIを手にすると人は怠けて働かなくなる」というお決まりのBI批判が、根拠のない単なる偏見であることを証明してみせた、というわけだ。

ただ、100ナミビアドルというBIの金額は、貧しいナミビアの人たちにとってさえ、少額だということに注意が必要である。100ナミビアドルだけでは、途上国の絶対貧困の基準としてよく引き合いに出される「1日1ドル」にすら届かない。100ナミビアドルを元手に始められるようなビジネスはごく零細なものであり、それだけで貧困から脱出できるようなものではない。

報告書では、自営業による収入の世帯平均がプロジェクト開始前の170ナミビアドルから1年後には681ナミビアドルに増加したことが誇らしげに記されている。300%超という飛躍的な増加率は確かに印象的である。だが、これは実は低賃金労働の代名詞である農場労働の最低賃金にも届かない水準なのである(参考文献2)。この地域の住民の多くが、農場のリストラで職を失った人々であることを考えると、雇用問題を脇においてBIだけを論じても仕方がないのでは、という気になってくる。

報告書の端々に引用されている住民の声は自信と喜びに満ちている。確かに、BIは地域住民の生活に大きな、前向きな変化をもたらしたのであろう。しかし、少額のBIでも変化がもたらされたのは、人々が極度に貧しかったからにすぎない。これで貧困問題が「解決」されると考えるのは幻想であり、BIは部分的解決でしかないことを改めて確認しておきたい。

参考文献

  1. Making the Difference! The BIG in Namibia. Basic Income Grant Pilot Project Assessment Report, April 2009.

    http://www.bignam.org/Publications/BIG_Assessment_report_08b.pdf

  1. “New Minimum Wage for Farm Workers,” New Era, 12 June 2009.

    [ http://www.newera.com.na/article.php?articleid=4891]

参考資料

ナミビアの物価水準:UNDPの報告書(2008)より

food poverty line(2100kcalの栄養をとるのに最低限かかる費用)が127.15N$となっていました。これは食べ物だけですので、住居、衣服など他の費用を含めた貧困ラインは184.56~262.45N$と推計されています。(いずれも月額一人当たり)

http://www.undp.org/poverty/docs/projects/Review_of_Poverty_and_Inequality_in_Namibia_2008.pdf

牧野久美子

日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員。専門はアフリカ地域研究、比較政治学。最近の著作に、「『道具主義』と『運動』のはざまで:現金給付の拡大と「南」のBIの展望」(『現代思想』2010年6月号所収)など。

【2】BIニュース

ベーシック・インカム韓日ネットワーク共同シンポジウムがソウルで開催

8月19日、ソウル市立大学自然科学館国際会議場で「第1回韓日ベーシック・インカムネットワーク共同シンポジウム」が開かれました。

ベーシック・インカム世界ネットワーク(BIEN: Basic Income Earth Network)名誉共同代表のガイ・スタンディング(Guy Standing,英国バース大学)とベーシック・インカム日本ネットワーク(BIJN)事務局長の山森亮(同志社大学)さんや、小沢修司さんなど、多くの人たちが参加しました。

下記の北野慶さんのブログが詳しいレポートを掲載しています。韓国のベーシックインカム情報では、いつもお世話になっております。

「第1回韓日ベーシック・インカムネックワーク共同シンポジウム」ソウルで開催

▼プログラムの紹介

http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-08-16

速報! ベーシック・インカム韓日ネットワーク・シンポジウム

▼京都新聞によるサマリー

http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-08-20

完全雇用が不可能な社会だからこそベーシック・インカムが必要だ-韓日共同シンポで提起された問題

▼北野慶さんによる見解

http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-08-20-1

韓日ベーシック・インカムネットワーク共同シンポジウムの詳報

▼「プロメテウス」キム・ソンイル記者、2010.8.23=抄訳

http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-09-01

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発行 : ベーシックインカム・実現を探る会、編集長:野末雅寛

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