BIメールニュースNo.104 2011.6.25発行
6月15日、震災復興基礎所得保障と生活再建のための現物支給を政府に要求する院内集会の第二回を盛会に開催させていただきました。とりわけ石毛えい子議員に集会会議室をおとりいただくなど、多くの方にお世話になりました。改めて御礼申し上げます。
今回は、復興ベーシックインカムに対する疑問の声を掲載させていただきました。私たちが院内集会で訴えていることは、この疑問に対する回答になっているつもりでしたが、説明が足りないことを痛感しています。
今後も粘り強く活動を継続していきます。
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私たち「ベーシックインカム・実現を探る会」は、政治的に中立の立場で、「すべての個人への無条件な所得の保証」というベーシックインカムを実現につなげる提言を発信します。
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原口議員の「復興ベーシックインカム」が、被災者の生活を解体する 坂倉昇平(『POSSE』編集長)
復興ベーシックインカムで被災者を救済? 東日本大震災の発生以降、「復興ベーシックインカム(BI)」を提唱する声を幾度か耳にした。貧困問題の立場から、それに賛同する意見も見かける。だが、「BI」の響きばかりにとらわれ、その各々の提唱者が込めた政治的意図に目を向けることが忘れられてはいないだろうか。
菅内閣への不信任案が否決された6月2日、民主党の原口一博衆議院議員は自由報道協会主催の記者会見で、被災地の現状に触れ、「復興ベーシックインカム」という言葉を交えて、次のような発言をした。「大きなスーパーマーケットにはものが溢れているが、買えない」「お金が足りないからです」「個人認定ができないからです。本当の被災者の方なのか」「無謬性を行政が大事にするから、本当にその人か確認できない」。
どのような方法で、誰に、いくら支給し、他の現金給付や現物給付との整合性はどうなるのか。この発言からはその構想を明確に判断することはできず、具体的な政策としての検証は難しい。かろうじて読み取れるのは、次のようなイメージだ。義援金を与えるべき被災者かどうかの認定に時間がかかり、義援金の支給が遅れているのだから、認定じたいを放棄し、一律で無条件に現金を給付する「BI」を導入すべきだ―。
しかし、果たしてそのような政策が被災者から望まれているのだろうか。「BI」に隠された原口議員の狙いと復興現場の現状に目を向けてみたい。
原口議員が推進する地域主権改革とは何か そもそも、原口議員の所属する民主党は、この数年間、今回の被災地などの地方に対し、どのような政策を講じようとしてきたのだろうか。自民党政権時代、小泉構造改革は地方への財政支出を削減し、その限られた財政によって地方に社会保障削減を選択する責任を移管してきた。こうして地方住民の生活が疲弊させられたことへの批判を一つの争点として、民主党は2009年の政権交代を成し遂げた。しかし、民主党が政権交代以前から現在に至るまで掲げてきた地域主権改革は、実は小泉改革路線の延長にほかならない。
渡辺治・一橋大学名誉教授は、民主党の「地域主権改革の4本柱」として以下の論点を上げている(※1)。「ナショナルミニマムを保障するためにある国の義務づけ・枠づけの廃止」、「国の関与を機構的に保障している国の出先機関廃止」、「事務・事業をできるだけ基礎自治体に移管すること」、「国の補助金・国庫負担金を廃止して、地方が自由に使える一括交付金に代えること」。いずれも「地域主権」を掲げて国の保障すべき役割を地方の責任になすりつけ、「自主的」に構造改革を進めさせる政策であると言えよう。
そして、原口議員の立場はより鮮明である。今年の5月31日、彼が主要メンバーを務める「日本維新の会」の設立集会が行われた。日本維新の会は地域主権改革を推進するために原口議員を中心に結成された政治団体であり、橋下徹・大阪府知事の「大阪維新の会」などとの連携がすでに表明されていた。この日も、会の綱領案として、「議員定数、歳費の縮減はもとより、地方行政、地方議会の大幅な刷新をおこなう」という文言が読み上げられている。彼がその2日後に提唱した「BI」における行政批判もまた、国や地方の社会保障を削減する方向性にそったものであることを、疑う余地はないだろう。
被災を詳細に判断するための「人」こそが求められている ここで、被災地の現状に目を向けたい。私が活動しているNPO法人POSSEでは、仙台で被災者支援を行っている。仙台に滞在しているスタッフに聞くと、被害程度を証する罹災証明書の発行に時間がかかっているという。罹災証明書がないと、義援金や生活再建支援資金の申請ができない。だが、この発行に時間がかかるのは、行政の人手不足が原因であるそうだ。家の損壊具合を判定するには、職員が戸別に訪問しなければならないため、かなりの時間がかかっているという。話を聞いた中には、1ヶ月半も待たされた被災者すらいたとのことだった。
原口議員の示唆するように、認定をすること自体が間違いで、被災の程度を無視した現金給付をすれば解決できる問題なのだろうか。被災の程度が異なるのだから、被災者に応じて補償のレベルを調整するのは当然のことだ。むしろ、迅速かつ正確に認定を行うための公的セクターが、地方改革の中で弱体化させられていたことこそが原因なのではないだろうか。(※2)
さらに、先ほどのスタッフは言う。「金では解決できない福祉的ニーズが大量にあって、必要なのはそのニーズを充足させることのできる能力をもった人だというのが実感です」。医療や心のケアを保障し、専門的なNPOをバックアップし、ボランティアをコーディネートする国や自治体の活動が求められている。しかし、そうした被災地で求められる行政の役割こそ、政権に近い人々が提唱する復興「BI」が解体しようとしているものなのだ。社会運動的なBI論者たちも、こうした政策への明確な批判の力を持たないまま、自らの理想の「復興BI」を唱えてはいないだろうか。
※1 渡辺治「民主党政権論―鳩山政権から菅政権へ」『賃金と社会保障 No.1533 3月上旬号』(2011年、旬報社)※2 この論点については、仁平典宏「被災者支援から問い直す「新しい公共」」『POSSE vol.11』(2011年、POSSE)が詳しい。
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