成長を超えて~~ベーシックインカム・通貨改革と脱原発への道 (4) ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

原発再稼働問題でも原発建設予定地での推進派と反対派の対立でも原発推進派から必ずでてくる科白が「原発がないと地域の経済が立ち行かない」というものだ。長い間、原発は地域を潤す特効薬として宣伝され政治の道具として使われてきた。そうであるならば、原発のかわりに、原発を受け入れている地方にベーシックインカムを支給して原発がとまっても何ら経済的に問題はないということを証明しようという発言がでてくるのは当然だ。twitterで映画監督の鎌仲ひとみさんがそんな風によびかけていた。正論だと思う。

正論には違いないがその実現のためには通貨改革を含めて相当な下準備がいるだろう。実現はそう簡単なことではない。そもそも、わたしたちには、いつの間にか東京を中心とする大都会は富んでいて、地方は限りなく貧しいという思考が刷り込まれている。確かに現実は「貧しい」のだ。ただ、それが永遠の昔からの常態であったような錯覚に陥っている。まずは、ここの思考の塊をほぐすことからはじめてみよう。

現在、知事選挙で話題の山口県には、上関原子力発電所建設計画問題がある。この原発を誘致しようとしている上関町とはどんな町なのだろうか。町の高齢化率は約50%(全国平均が20%)。ここ40年間で人口が6割減っている(1970年には8308人だった人口は2010年で3332人になっている)。これに関しては、朝日新聞(山口地方版)2011年3月8日に「交付金見込み17%増 上関予算案」という見出しの次のような記事がある。少し長いが全文引用する。

『上関町の2011年度一般会計当初予算案が7日、3月定例議会に提案された。上関原発建設計画に伴う国の原発立地地域特別交付金10億3800万円の歳入を見込み、総額は前年度比17・2%増の43億9496万円。「総合文化センター」と「ふるさと市場」(いずれも仮称)を年内に着工するほか、今年度に続いて全町民に2万円の振興券を配る。  総合文化センターは公民館と図書館、多目的ホールのある施設で、総事業費は約13億円。併設するふるさと市場には直売所や飲食店、航路待合所などを設け、総事業費約4億円を見込む。ともに上関町室津の埋め立て地に建設し、12年秋に完成する予定。室津小学校跡地に建設中の温浴施設「上関海峡温泉」と合わせ、11年度当初予算案に占める3施設の事業費は約11億2700万円。うち10億3800万円を特別交付金でまかなう。特別交付金は09~13年度に計25億円見込まれる。

町民3558人(1日現在)に2万円の「花咲く海の町振興券」を交付する事業は今年度初めて取り組み、経済効果があったとして新年度も約7400万円を予算化した。中電の寄付金などで運用する「ささえあい基金」を充てる。

一般会計当初予算の総額は09年度比で34・2%増、08年度比で40・5%増。歳入に占める町税(2億4233万円)の割合は5・5%しかない。「上関原発を建てさせない祝島島民の会」の山戸貞夫代表は「身の丈を度外視した予算。ハコモノばかり造って、将来は運営費がかさんで大変なことになる。よその原発立地町村の教訓を踏んでいない」と指摘する。(渡辺純子)』

(上記、人口推移および新聞記事の存在は、『原発廃炉に向けて』エントロピー学会編所収の「上関原発の建設中止の行方」三輪大輔著より学んだ)

なんと、中国電力の寄付金をもとに現金給付まで計画されているではないか。これこそお涙ちょうだい的「偽」ベーシックインカム!そして、予算総額はどんどん増えているが、歳入に占める町税の割合は微々たるものだ。この摩訶不思議な財政の背景に、原発立地困難地区対策として政策立案された「電源三法」(発電用施設周辺地域整備法、電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法)があることはよく知られている。基本的な三法の仕組みは以下のようなことだ。

全国の電力会社(9電力会社と沖縄)から販売電力量に応じて一定額(1000kwにつき85円)の電源開発促進税を徴収し、それを電源開発促進対策特別会計の予算とし、その予算を電源立地促進のための多種類の交付金・補助金・委託金、特に発電所を立地する自治体(周辺市町村も含む)への「電源立地促進対策交付金」という「迷惑料金」にあてるというものだ。しかし、引用した記事のなかで山戸さんが言っているように「電源三法」制度は一時的な雇用・財政効果しかもたらさず、立地自治体には常に増設の圧力がかかり、麻薬的な作用を地域に強いるという批判は様々な論者からなされている(交付期間の終了により、財政規模が激減してしまうので、別の安定的な財源措置が必要になる)。また、法人住民税についても、進出企業の本社が他の自治体にある場合、従業員数に応じて比例配分される。そのため、電力会社本社が大都市にあり発電所が地方にあるような場合、法人住民税の多くは本社のある大都市に吸い上げられてしまう(たとえば、立地市町村に100人の従業員がいて、大都市本社など他の市町村に9900人の従業員がいれば、法人住民税の法人税割の99%は大都市に吸い上げられる)。

(電源三法、法人住民税のことは『新版・原子力の社会史』吉岡斉著および『脱原発の経済学』熊本一規著から学んだ)

冒頭に述べた地方はかぎりなく「貧しい」という刷り込みとも関連するがこのように地方が中央からの原発関連の予算配分にもたれて生きる構造、そして中央が地方から財・物・人が吸い尽くされてしまう構造はどのように生まれてきたのか?もちろん、この構造は、原発問題にかぎらず日本の近現代史における「中央VS地方」という構造に重なっているわけだ。

その歴史的原因は明治維新にある。典型的な例としても、また、福島原発が生まれてきた背景としても「東北」を例にそのことを考えてみたい。

東北地区は、幕末、東北諸藩が奥羽列藩同盟を結び薩長連合軍に対抗した。明治維新政府樹立後は、この東北同盟各藩は「朝敵」の汚名を着せられ弾圧政策にさらされる(それは白河以北一山百文という差別的な言葉によくあらわれている)。会津藩・盛岡藩など、減俸・転封を命ぜられた。これらの政策により東北地区は独自の近代化が遅れ「辺境」の地においやられてきたといってよい。この後、明治政府は、中央集権化政策のために官選知事を派遣して中央のコントロールのきく地方支配を貫徹しようとする。有名な県令・三島 通庸(みしま みちつね)はその典型的人物である。三島は、山形、福島などで地方隷属化の政策を断行し自由民権運動など抵抗勢力には厳しい弾圧を加えた。また、三島は、「土木県令」とあだ名されるように中央政府に都合のよい土木開発を行いその財源として地方への重税を課している。ゆがんだ「国土計画」の象徴が三島だ。三島のような人間像は、現在の東京電力の幹部にも受け継がれているといってよい。

このような流れと対極にある人物が盛岡藩出身の政治家、小田 為綱(おだ ためつな)である。小田は私擬憲法の「憲法草稿評林」の作成者として知られている。私は憲法思想と共に、彼が東北地区の地域実情にあった国土プラン「三陸開拓案」を明治政府に提案した人物としてその思想を評価すべきだと思う。小田のプランは現在からみても地方の地方による地方のためのものだといえよう。小田は、東北地区の農業開拓のために明治になって失職した士族を帰農させることを考えていた。この帰農プランの具体的な予算案もつくり、帰農者の生活資金などには鋳銭工場をつくりその利益をあてること、また、不足分は、富裕層からの借金なども考えていた。加えて地方独自の産業育成のための「陸羽銀行」(地方銀行)の設立や地方の人材育成のための「陸羽大学」(地方立大学)の開学も計画した(哲学・政治・農業・理化、医学、文学などの12学部の総合大学)。残念ながらこれらの提案はことごく明治政府によって無視されてしまう。

3・11以後の現在から未来を考えるとき、この小田為綱の思想から学ぶことは多いに意味がある。真の地方主権ということを考えていかない限りベーシックインカムも通貨改革もそのラディカルな実現は達成されないだろう。(この稿続く)

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