BIメールニュースNo.078 2010.12.18発行
【1】ベーシックインカム世界ネットワークブラジル大会について
村上慎司
【2】BIニュース
「ベーシック・インカム構想のキリスト教倫理的評価」が完結
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私たち「ベーシックインカム・実現を探る会」は、政治的に中立の立場で、「すべての個人への無条件な所得の保証」というベーシックインカムを実現につなげる提言を発信します。
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【1】ベーシックインカム世界ネットワークブラジル大会について
村上慎司
ブラジルで今年10月31日、ルラ大統領の任期満了に伴う大統領選の決選投票があり、中道左派で与党・労働党のジルマ・ルセフ前官房長官が同国初の女性大統領に選ばれた。新しく選出されたルセフ大統領は、前政権の政策を継承する路線を打ち出しているが、その中にはブラジルの貧困削減政策の一つであるボルサ・ファミリア(BOLSA FAMILIA)がある。これは、乳幼児の予防接種等を条件にして、家族1人当たりの平均所得が一定以下であれば子どもがいなくても給付を受けることができ、子どもがいる場合はその数に応じて給付額が増えるものである。ブラジルはBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)と呼ばれる代表的な新興国の中で最も安定した経済成長を実現しつつ、ボルサ・ファミリア等の手厚い社会保障政策で再分配を実施している。
このエッセイは、このようなブラジルのサンパウロ大学で、6月30日から7月2日にかけて開催されたベーシックインカム世界ネットワーク(Basic Income Earth Network) について簡単に触れるものである。ベーシックインカム世界ネットワークは一年おきにベーシックインカムに関する世界規模の大会を開催している。今年は初のラテンアメリカでの大会であった。大会参加者は大学での研究者に限定されず、ベーシックインカムに関心を持つ運動団体やNPO、そして政治家等の政策立案者まで幅広い分野の多様な人種、ジェンダー、年齢の人々から構成されていた。
特に印象に残った参加者にブラジルのエドワード・スプリシ上院議員がいる*1。彼はアメリカで経済学を学び、サンパウロ大学で教授を務め、労働党の創設メンバーの1人でもある。彼は2004年に「市民ベーシックインカム法」案をとりまとめ、成立させた。同法は段階的なベーシックインカムの実施を謳っており、その第一段階が冒頭に述べたボルサ・ファミリアである。彼の報告でもこのボルサ・ファミリアに言及しつつ、ベーシックインカムについての熱弁を振るっていた。その情熱はフロアにいた人々にも感染し、彼の言葉の合間に、大きな歓声が響くようになった。それは、ちょうどその時期に開催されていたワールドカップのサッカー会場を彷彿させるものだった。彼女/彼らは、新興国の高揚感とラテン的な楽観主義が相まって、ベーシックインカムの実現というゴールへのパスワークを描けているのかもしれない。
最後に、本メールニュースでもたびたび紹介されていたが、ブラジルでベーシックインカムに関する取り組みをされており、大会にも参加されていたNPO「ヘ・シビタス」に属するブルーナ・ペレイラ氏とマルコス・ドスサントス氏が来日された。このように今後も日本とブラジルの交流からベーシックインカムの議論が深まることを期待したい。
*1以下は山森亮(2010). 「ブラジルの実験―小さな農村コミュニティで始まった給付」『週刊エコノミスト』2010年9月21日号、p.88を参照した。
村上慎司(むらかみしんじ)
立命館大学 衣笠総合研究機構 ポストドクトラルフェロー
研究テーマ:経済哲学、社会保障の基礎理論
著書等:立岩真也・橋口昌治との共著『税を直す』青土社、2009年
【3】BIニュース
「ベーシック・インカム構想のキリスト教倫理的評価」が完結
この2週間ほど、北野慶さんのブログで連載されていた韓国のカン・ウォンドン教授による「ベーシック・インカム構想のキリスト教倫理的評価」の翻訳が、ついに完結しました。
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-20
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-21
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-22
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-23
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-24
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-25
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-29
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-11-30
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-12-02
http://kei-kitano.blog.so-net.ne.jp/2010-12-03
韓国はカトリック信仰の盛んな国ですが、その国情に合わせて、「働かざる者食うべからず」という通俗的なキリスト教的倫理観への反論を試みています。「労働と所得の分離」など、ベーシックインカムの議論に慣れた方にとっては、ごく初歩的な論点が多いですが、キリスト教の文脈で読むと、また力強い主張になっています。
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発行 : ベーシックインカム・実現を探る会、編集長:野末雅寛
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