ドイツにおけるベーシック・インカムの実験計画

昨年2009年12月に、ドイツでBIの実験が計画されていることが報じられた(『マネジャー・マガジン』誌)。

このプロジェクトの主唱者はゲッツ・ヴェルナー氏の著作と講演に触発されたというブロイニンガー財団のヘルガ・ブロイニンガー女史で、この実地調査の計画立案と実施を担うのはアンドレ・プレッセ氏である(氏はカールスルーエ工科大学の「起業家精神養成のための学部横断研究所」所長ゲッツ・ヴェルナーの共同研究者)。以下、当プロジェクトの責任者であるプレッセ氏のインタビュー(2010年2月5日のオンラインラジオDefektor.fm)および『マネジャー・マガジン』誌の報道から実験計画の概要をお伝えしたい。

当初の計画では、シュトゥットガルトで100人を対象に、1年間、月額800ユーロを支給するというものだった。その後、ブランデンブルク州のプラチェック首相の意向を受けて、シュトゥットガルトとブランデンブルク州(地域は未定)でそれぞれ100名の参加者を募り、月額800ユーロ(社会保険料は別途支給)、期間も2年間に延長された。

プロジェクトの費用総額は700万ユーロと見積もられており、その一部をブロイニンガー財団が負担するが、これ以外の醵金の見込みについては現在不明。またこの実験への応募者もまだごく少数で、当プロジェクトが計画通り2010年半ばに実施されるか否かは予断を許さない。プレッセ氏も、ナミビアやブラジルの実験では一定の地域住民全員に一定の給付額(前者は9ユーロ、後者は15ユーロ相当の月額)が支給されたが、800ユーロでは莫大な資金を要することからこの方式を採用し得ないことの難を認める。

ちなみにヴェルナー氏は、期間および地域が限定されているこの計画には懐疑的である。それは「あたかも、右側通行から左側通行へ切り換えようとするときに、その成否を見極めるために、全車両ではなく、まずはトラックだけを対象にして始めるようなものだ」と言う。

この比喩が適切かどうかは別として、懐疑的になる理由は想像できる。プロジェクト期間は2年に限定されているから、応募者は当初から2年後を念頭に置くことになろう。しかしそれでも、経済基盤の強固なシュトゥットガルトと失業率の高い旧東独地域との比較は非常に興味深いし、月額800ユーロを支給された応募者たちがいかなる行動を取るかについてもある程度の成果は期待できるであろう。

応募対象者となるのは、就業が見込めない大学卒業者、育児休暇終了後の母親、早期退職者、ハルツ4(ドイツの失業保険)の受給者、長期失業者である。

このプロジェクトについては、続報が入り次第またご報告したい。

  • 2010年3月現在の為替相場は1ユーロ125円前後で推移しているが、実際の貨幣価値としては100円から110円程度。

  • 『マネージャーマガジン』の該当記事(ドイツ語)

    http://www.manager-magazin.de/geld/artikel/0,2828,667336,00.html

  • 本記事はオーストリア在住の渡辺一男氏よりご寄稿いただきました。

    渡辺一男 プロフィール

    1946年生まれ。東京都立大学博士課程中退(ドイツ文学専攻)。1999年以降オーストリアで翻訳に従事。訳書:R.クルツ著『資本主義黒書(上・下)』(新曜社)、G.W.ヴェルナー著『ベーシック・インカム ― 基本所得のある社会へ』および『すべての人にベーシック・インカムを ― 基本的人権としての所得保障について』(ともに現代書館)、その他。著書:『オーストリア日記』(現代書館)。

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