「生きるための経済――なぜ所得保証と信用の社会化が必要か」講演会関曠野さんご推薦の資料WEBサイト
2009年3月8日
1)まずダグラスが大恐慌のさなかの1935年にオスロで国王や実業界の代表を前に行った講演で、社会信用運動の核心が簡潔に要約されています。スクロールダウンしてください。
http://www.globalresearch.ca/index.php?context=va&aid=6870
2) これは今のアメリカで社会信用運動を代表するリチャード.クックのホームページ。インタヴューやエッセーが中心なので初心者にも解かり易いでしょう。オバマ大統領に送ったアメリカ経済再建のためのクックプランも掲載されています。なおクックはNASA 勤務時代にスペースシャトルの事故を予測し告発したことでも有名で、そのチャ
レンジャー関係の文書も入っています。
http://www.richardccook.com/articles/
3)これはカナダでダグラスの思想を広めたカトリックの宗教者ルイ.エヴァンの主著「この豊かさの時代にIN THIS AGE OF PLENTY」をそっくり読めるサイトです。ローマ教皇の言葉が引用されるなどカトリックの色彩が強いですが、社会信用論自体についてはダグラスよりはるかに噛み砕いて解かり易く説明しています。これを読めば社会信用論はすべて理解できると言えるでしょう。中高生でも分かるような平明な英語で書かれています。一番のお奨めのサイトです。
http://www.michaeljournal.org/plenty.htm
4)これはエヴァンが信用の社会化に基づく金融システムをより現実的制度的に詳しく説明したもの。すこし難しくなります。
http://www.michaeljournal.org/soufin1.htm
5)これはエヴァンと彼の共鳴者たちのマネーと信用をめぐるさまざまなエッセーを集めたもの。読みやすいものばかりです。スクロールダウンしてください。
http://www.itulip.com/forums/showthread.php?t=22512
(編集部・注 上記のルイ・エヴァンなどのサイトは、一部、以下の安部芳裕さんの「反ロスチャイルド同盟」のサイトで翻訳されています。)
http://www.anti-rothschild.net/material/41.html
6)これは本命のダグラスの主著「SOCIAL CREDIT」を一冊まるごと読めるサイトです。
ただダグラスは読者に親切な文章を書く人ではなく金融や会計の専門用語も出てきます。それでも読んでみたい人はどうぞ。上記のサイトを読んだ後でなら難解ということはないでしょう。
http://www.mondopolitico.com/library/socialcredit/prefacetoreviseded.htm
7)これもダグラスの重要なエッセーや適切な解説が読める良質なサイトです。
http://douglassocialcredit.com/
8)これは通貨改革論の立場に立つさまざまな人たちのマネーと信用に関するエッセーを沢山集めたサイトです。たいへん面白く勉強になります。今の英国で社会信用論を代表するMICHAEL.ROWBOTHAM の重要な論文も読むことができます。
http://www.prosperityuk.com/articles_and_reviews/articles/index.php
以上です。
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以下は、BI・実現を探る会側で選んだ、ダグラス(通貨改革)などにふれた日本語文献。
●『新しい貨幣の創造――市民のための金融改革』ジョセフ・フーバー/ジェイムズ・ロバートソン著 石見尚/高安健一訳 日本経済評論社
●『ベーシック・インカム入門』山森亮著 光文社新書
●『生産経済学より信用経済学へ』土田杏村著 第一書房(ただし、1930年初版のものなので、図書館で借りるか古書店[ネット古書店]での入手となる。)
●『貨幣の生態学――単一通貨制度の幻想を超えて』リチャード・ダウスウェイト著馬頭 忠治/塚田 幸三訳 北斗出版
● 『自由経済研究 第31号 特集 C・H・ダグラスの生産主義と会計主義 Ⅰ』 「ダグラスについて」や「ダグラス著作目録」なども所収。2008年1月 ぱる出版
● 『自由経済研究 第32号 特集 C・H・ダグラスの生産主義と会計主義 Ⅱ』 この特集では『経済民主主義』ダグラス著の翻訳所収 2008年7月 ぱる出版
● 『自由経済研究 第33号 特集 ゲゼル再論 Ⅰ』に『経済民主主義』ダグラス著の(中)の翻訳所収。
C・H・ダグラス(Clifford Hugh Douglas)について
・社会信用のはじまりは、この名前から始まった。その人の名は、クリフォード・ヒュー・ダグラス。彼は、1879年マンチェスター郊外の町ストックポートに生まれた。ケンブリッジ大学に進み、そこで数学の名誉学位をとった彼は、その進路としてエンジニアの道を選択した。
・ダグラスは、重要な仕事を任された優秀なエンジニアだった。インドでは、ウェスティングハウス社のマネージャー兼エンジニアとして、南米では、ブエノスアイレス大西洋鉄道社の副電気技術主任をつとめた。イギリスに戻ってからは、ロンドン郵政公社地下鉄の建設にたずさわり、第一次大戦中には、ファンボロウの王立航空機工場の工場長補佐の地位にあった。彼の肩書に「少佐(Major)」の名がつくのは、このときに、軍用機の製造にかかわったことからくるものである。インドでは、政府の強い求めで水力発電の調査をし、その計画の有効性を主張したが、「資金不足」で計画は棚上げとなった。これらの経験は彼に「金融問題」を気づかせることとなる。
・ダグラスは仕入原価会計の専門家でもあった。英国政府が航空機工場の経理における「ある混乱」を整理するために1916年にファンボロウへ彼を行かせたのは、彼のこの専門性のためである。 ダグラスは、ここでコスト計算や資金計画の必要性などの分析から、「A+B理論」(関曠野さん講演録を参照)の着想を得る。
ダグラスは、アカデミズム的な意味での経済学者の肩書はもっていなかった。しかし、誤った前提で研究している経済学による権威づけは彼には必要なかった。今日の経済の本質とその欠陥の分析において、彼は偉大な「経済思想家」とよばれるべきだろう。
・ダグラスは、最初、1918年12月号の「English Review」において“Delusion of Super-Production” という論文を発表し、その後にA・R・オレイジの論壇誌「新時代」に次々と論文を発表する。これらは、『経済民主主義』という著作として出版され、これが、ダグラスの最初の著作となる。同年には『信用力と民主主義』、続いて『社会信用論』(1923年)、『生産の統制と分配』(1931年)、『民主主義への警告とアルバータの経験』(1937年)などの著作が発表される。これらの著作とは別に、社会信用論の講演を世界各地でおこない、カナダ、オーストラリア、ニュージランド、日本、ノルウェーなどへ講演旅行をしている。
・イギリスやカナダでは、「社会信用党(ソーシャルクレジット)党」が誕生し、カナダのアルバータ州では、社会信用党の政府までが生まれた。彼は、それらの党のリーダーとなるように要請されたが、固辞し続け、理論活動とその普及に努める。
第二次大戦以降、亡くなるまで、ダグラスは、その社会信用論の思想を深めていく。
彼は、1952年9月29日にスコットランドの自宅で亡くなった。73歳だった。(文責、白崎一裕)
景気の底が見えない。日本でも海外でも目下経済は無情な悪循環の中にある。景気の悪化で企業の倒産や失業が増えれば人々の所得の減少で消費は落ち込み、それがさらなる倒産や失業を生む。今の経済危機の根本原因が人々の所得不足にあることは明らかである。だが危機の中であえいでいる企業に雇用による所得の保証は期待できない。しかも現代は産業のオートメ化が極限にまで進行した時代であり、たとえ経済危機がなくても現代人の大半は潜在的に失業者なのだといえる。
だが庶民の所得が回復しなければ経済は動きださない。それならば雇用と所得を一定程度切り離したらどうか。かねてから一部の人々の間で議論されてきた基礎所得(ベーシック・インカム)保証の制度は今こそ世間の関心を集めていい。これは、子供を含むすべての国民に個人単位で月八~十万の基礎年金程度の所得を生涯にわたり一律無条件に支給する制度で、支給に際し生活保護のような資格審査はなく貧富の差も考慮されない。この制度はおそらく危機の根本的打開策になるだろうが、問題はその財源である。税収が大きく落ち込む中で所得税や消費税ではこの制度にかかる膨大な費用を賄うことはできない。それでは経済の特効薬に見える基礎所得保証はやはり絵にかいたモチなのだろうか。
いや、そうではない。従来基礎所得保証の議論は福祉国家論の延長線上でなされてきた。そして「国民配当」の名で最初に所得保証の必要を論じたのは、大恐慌当時に社会信用論(ソーシャル・クレジット)を提起しケインズにも大きな影響を与えた英国のクリフォード・ダグラスであることが忘れられてきた。このダグラスにおいては所得保証は通貨改革の必要と一体になっている。そして彼の視点に立つならば、国民配当実施のための「財源」という問題は存在しないのである。
機械制大工業の時代に入ると企業には巨額の設備投資や研究開発費が必要になり、企業の経営は銀行の融資に左右され、「利子つき負債」である銀行信用がますます経済全体を動かすようになってくる。そのうえ企業の生産費用の中では減価償却費などに反比例して勤労者の賃金給与に充てられる部分が小さくなっていく。そして問題は、この事態が商品の価格を決定していることである。需要と供給の均衡で価格が決まるという古典経済学の説はもう通用しない。価格には銀行への返済や減価償却などの費用が含まれているのに、勤労者が雇用で得た所得は生産費用のほんの一部をなすにすぎない。ゆえに彼らは消費者としては企業が生産したものに見合うだけの購買力をもたない。こうして市場経済の現状では人々は所得不足、企業は販売不振に苦しみ、これは最後には恐慌に行き着く。
この状況に対し社会信用論は、信用の社会化、国民配当、正当価格という解決策を提示する。危機の根本は、銀行が自らの金融的利益の観点で実体経済に介入し社会の生産と消費を左右していることにある。だから政府が自ら公共通貨を発行し、社会の潜在的な生産と消費の能力に即してそれを無利子か超低利子で融資すればよい。そして人々の慢性的な所得不足を解消するためには国民配当が必要である。ダグラスによれば、生産は個々人の労働能力ではなく共同体の文化的伝統の成果であり、ゆえにすべての国民にはそうした伝統の相続人として配当をもらう権利がある。だがこれだけでは価格のひずみの問題は片付かない。かりに消費の低迷で経済に30パーセントの需要ギャップが生じたとすれば、それに等しい割合で小売価格を一律に引き下げる必要がある。そしてこの割引した分は後で国家から小売部門に補償される。こうして価格は、それによって生産と消費が均衡する「正当」なものになる。
社会信用論においては通貨は商品ではなく分配の手段である。それは消費のための生産を円滑に促進する切符のような手段であり、所得保証はそうした通貨供給の一環なのである。そして今日的な視角からも社会信用論は重要である。まず第一にこの方式の下でなら人々が環境保護を重視し基本的な欲求を充たした後は余暇を楽しむ生き方を選んでも経済に混乱は生じないだろう。そして現在の経済危機は明らかに文明の転機なのだが、省エネ化によるエネルギー収支の多少の改善は転換と呼ぶに値しない。おそらく文明の転換のためには無数の人々が草の根レベルで試行錯誤を重ねて新しい生き方を模索することが必要だろう。基礎所得保証の最も重要な意義はそうした社会の実験を容易にすることにある筈だ。
(朝日新聞中部版2009年5月12日の夕刊・文化欄に掲載されたものを転載)