成長を超えて~~ベーシックインカム・通貨改革と脱原発への道(1) ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

まず、最初にお断りしておくが「実現を探る会」総体が「脱原発」かどうかは、会員全体でこのことに特化して議論したことがないので、「わからない」と申し上げておく。このメルマガの連載は、あくまでも私個人の見解であり、現在の私の行動指針でもある。また、今回のメルマガは、本論への予告編である。

私個人は、1970年代の後半から、一貫して「反原発・脱原発」の考えをもってきた。その理由は、単純明快なことで、よく原発の議論のなかでいわれる「便所なきマンション」ということだった。放射性廃棄物の捨て場所がない(処理できない)ものを稼働させておくことの反論理・反生態学的な原発への反感が基本だったと思う。

さて、私の立場を明らかにした上で、本題に入ろう。

ここのところ福島第1原子力発電所事故後のひとつの山場ともいえる議論が連日続いている。言うまでもないが、私の生まれた福井県にある大飯原発の再稼働をめぐる議論である。ここでの議論はひとつのステレオタイプを生み出している。それは再稼働させたい勢力に顕著であり、かならず恫喝をともなっている。

たとえば、4月25日の「産経ニュース、京都大学原子炉実験所教授・山名元 原発ゼロは危険な「社会実験」だ」という論説である。ここでの議論は、「原発を動かさないでゼロにすることは、日本経済を沈没させてしまう、沈没を阻止するには原発を動かせ」ということにつきる。ステレオタイプの恫喝といったのは、まさにこういうことなのだ。原発がないと食えなくなるぞ!と吠えている。しかし、本当にそうだろうか。もちろん、このメルマガの読者なら「ベーシックインカムがあるからだいじょうぶだ」と反論するかもしれない。

私は、その結論を持ち出してくる前に、その根拠をつめて議論してみたいのだ。いまや、ベーシックインカムという制度を単独で議論している段階はとっくに過ぎ去ってしまった。(3・11以降、特に!)現在の社会・政治状況のなかでベーシックインカムや通貨改革をどのように志向していくのかを考えなければならない。

話を原発がないと経済がたちゆかない、経済成長しない~~という議論に戻そう。ここに含まれている根本思想は「経済成長は善なるもの(必要不可欠なもの)」ということだ。しかし、ベーシックインカム派や政府通貨論者のなかにもこういう思想は根深くある。「ベーシックインカム導入で経済も成長する!」「政府通貨で経済大成長!」という言説を耳にしたことはないだろうか?

経済成長を議論するときに、私たち庶民には、いまひとつピンとこないが、かならず登場する指標にGDP(国内総生産)とかGNP(国民総生産)とかいう用語がある。GDPが何%伸びたとかいう報道もよく聞く。どうも、これらは経済成長や経済的豊かさの指標らしい。しかし、この指標はほんとうに経済成長とかいうものをあらわしているのだろうか。メルマガのタイトルにつけた『成長を超えて~~BEYOND GROWTH』ハーマン・E・デイリー著という本がある(邦訳は『持続可能な発展の経済学』みすず書房)。このなかで、デイリーがこう述べている、(すこし長いがそのまま引用しよう)

「国民経済計算は成長の費用を反映できないような仕方で設計されている。たとえば、結果的に生じた防衛的支出は、曲解して、さらなる成長として計算される。われわれが生活するのに頼っているのは所得なのか資本なのか、利子なのか元本なのかをGNPはあきらかにしない、という指摘はいまとなっては陳腐だ。化石燃料、鉱物、森林および土壌の減耗償却は資本の消費だが、GNPはいまもなお、そうした持続不可能な消費を、持続可能な産出物の生産(真の所得)とまったく区別せずに扱っている。しかし、われわれはプラスの資本(富)の蓄積を取り崩してしまうだけでなく、有害廃棄物の堆積および使用済み核のかたちでマイナスの資本(有害物)も蓄積している。生産された財が蓄積されたらいつでもそれが「経済成長」であると無頓着に語ることは(中略)並はずれた偏見を表すことだ」(P57)

この文章を読んで気がついた。いま、福島のセシウムの除染で年間1ミリシーベルト以下にすることが可能だとして、その費用は23兆円もかかるという試算を聞いたことがある。この23兆円は、GDPの中に計算されるのだろうか。されるとして、それを「経済成長」と言われて納得できるだろうか?みなさんはどうだろう。デイリーによれば、それは、きわめて怪しいことだということになる。否、デイリーにいわれなくても汚染された大地を取り戻す作業が(可能性も低いのに)「経済成長」なんていわれると詐欺にあったような気分になるではないか。「経済成長」の中身なんてそんなものである。いまの日本は本当に経済成長しているのか、また、経済成長なんてもう終焉しているのではないか、経済成長を続けていくことなんて可能なのか、こういうことをふまえながら同時にベーシックインカムや通貨改革そして脱原発について考えていきたい。(この稿続く)