「ベーシックインカムが貧困を解消する ― 生活保護よりすべての人に基礎給付を」
原田泰(はらだゆたか)/中央公論2010年6月号
こういう立場の人からもベーシックインカムが出てくるようになったのか、という論が現れた。中央公論2010年6月号に、原田泰氏が書いた「ベーシックインカムが貧困を解消する」である。
原田氏は、大和総研専務理事チーフエコノミストである。エコノミストらしいエコノミストといったらわかりやすいであろうか。経済の広い範囲にわたって発言のある人である。
この論の書き出しは、「これまでの日本の生活保障は、企業が中心になってきた。しかし、日本の企業はそのような重荷に耐えかねるようになっている。そもそも、企業とは利益を得て、税金を払う組織であって、そこに共同体的な役割を担わせようというのは無理がある。むしろ、政府が直接、人々の生活を保障したほうがよいのではないだろうか」
これは、日本の企業の変化をよく捉えている。従来型の企業別生活保障を続けるならば、日本社会には貧困にあえぐ人たちがたくさん生まれるであろう。それは既に実際に起こっている。
公共事業の効果には疑問がある。「国家はつまらない仕事を作るより、直接、人々の所得を保障してしまったほうがましなのではないだろうか。」
原田氏の論考は、ベーシックインカムが財政的に実現可能であることを具体的な数字で示していることに意義がある。負の所得税タイプとすべての成人タイプの二つの具体案がある。
つぎに、ベーシックインカムについては、次のような計算をしている。毎月7万円を、20~64歳の日本国民全員7,476万人にBIを支給したとする。その支出は63兆円。ただし、子どもは子ども手当を存続。65歳以上は現状の年金制度を維持とする。この財源には30%の所得税および基礎控除、配偶者・子どもの扶養者控除の廃止をあてる。これによって79兆円の税収がある。筆者は、さらに入念に費用を算出するが、この数字だけをもってしても、ベーシックインカムが現実的なものであることは一目瞭然だろう。
原田氏は「ベーシックインカムは労働意欲を阻害するか」という問題を次のように論じる。
まず、原田案では所得の低い人にも所得税が課税されることについて、現行の生活保護で働くと給付水準を引き下げられる労働阻害効果より、はるかによいとする。
行政コストについては、現在でも完璧な所得補足はできておらず、その中で新しい税率を課せばよいこととする。
ベーシックインカムが夢を追って成功しない若者を増やすという批判に対しては、現在でも弁護士になれない法科大学院、研究者になれないオーバードクターなどがある。青春彷徨の機会を作り出すことはむしろ積極的に評価する。社会が人々のあらゆる試みに最低限の報酬を払うことは悪くないこととする。
能力ある人々が非世俗的満足を求めるようになるという問題には、経済的成功がすべてではなく、世界はこのような人たちで幸福度を増してきた。
国家は貧困を解消できる、という力強い論である。