「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平 ― 社会サービス充実の財源はある」
小沢修司/現代思想2010年6月号
「社会サービス充実の財源はある」、という副題がついている。日本でのベーシック・インカム提唱のパイオニア的存在である筆者が、ベーシック・インカム以外の現物社会サービスの重要性を説く。
筆者はベーシック・インカムの必然性を次のような社会・経済状況から捉える。
「働くことで所得を得て生活する、すなわち労働と所得を一致させている今日の資本主義社会における生活原理が機能しえなくなり、労働と切り離してひとまず生活の安定のために所得を保障しなければ資本主義経済は立ち行かなくなる状況に至っている」
「ベーシック・インカムと社会サービス構想の新地平」のテーマは二つある。一点目は、BIが支給されたとしても福祉、医療、教育などの社会サービスを切り捨てないことである。
もう一点は、45%の所得税率で、一人月8万円のベーシック・インカムと現物社会サービスの両方が成り立つことを、具体的に数字を挙げて説明していることである。
「BIのある社会でも、社会サービスの重要性は変わることはない。」
これが、筆者の力説するところである。
ベーシック・インカムは、労働側からも経営者からも受け入れられやすい性質を持っている。しかし、新自由主義的立場からは、ベーシック・インカムがあるのだからと、保育、医療、教育などの社会サービスをなくして自己負担する発想が出てくる。それでは、ベーシック・インカムは従来サービスだったものの費用にあてられ、所得保障にはならないであろう。
「所得保障と社会サービスは車の両輪として必要である」
筆者は、早くから所得税を財源としてベーシック・インカムが成立することを示していた。基本的に、所得税を45%の定率とすることで、一人あたり月8万円、総計年115兆円のベーシック・インカムの財源はある。
これに対し、所得税を全額ベーシック・インカムにあてるなら、従来の所得税収16兆円分はどうするのだという疑問が出されていた。その疑問に応えて、今回、国民年金、児童手当、雇用保険、生活保護などの国庫負担分が不必要になるぶんの約8兆円と、年金や雇用保険などの事業主負担分18兆円の負担を継続することにより、よりいっそうの社会サービス充実が可能である、という設計が出て来た。
今回の説明でも、年金がすべてベーシック・インカムに置き換えられて、年金の大幅切り下げになる人たちが大量に発生するのではないかという疑問は残る。
しかし、筆者がベーシック・インカムの具体的な数字を提出し、今回さらに練り上げを行っていることの意義は、非常に大きい。ベーシック・インカム実現の議論に核を提供し、多くの人の議論参加の道を拓いている。
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文責:古山明男