マネー改革 藤澤雄一郎さん(有機農家)

以下の文章は、2018年の3月に 第38回長野県有機農業研究会大会 において関曠野さんの講演会「戦後日本とは何だったのか ~通貨システムの改革が日本の未来を切り開く~」を主催された、藤澤雄一郎さん(有機農家)が「有機農研」に書かれたものですが、ご本人の承諾を得て、こちらにも転載いたします。通貨改革の基本的視座がコンパクトにまとめられていると思います。多くの方々に読んでいただきたいと思います。

 

マネー改革

藤澤 雄一郎

 

昨年の総会では関曠野さんの講演と私の話しを大勢聞きに来てくださりありがとうございました。今話題のベーシック・インカムからマネーの問題を考えてみるキッカケになったでしょうか?マネーは水や空気のようになくてはならない物になっています。水や空気は自然に元々あるものですが、マネーは人間が作り出したものなのにその仕組みはほとんどの人は知りません。しかし、経済恐慌・戦争・紛争・環境問題など地球上の様々な問題の根源にはマネーがあります。水や空気でさえ汚染されている時代なのにその原因の一つであるマネーにはタブーが多すぎます。

私は有機農業を目指しながら地域の乱開発の問題にも少し関わってきてつくづくそう思いました。農林漁業は輸入自由化で衰退する一方、地方はリゾート開発だ、観光だと騒がれました。経済やマネーの仕組みを知り、その流れをどう変えていくのか?に関心を持ちました。

そんな中で、経済常識と言われるものがいかに嘘ばかりなのかを知りました。例えば「自由貿易」というのは真っ赤な嘘です。今も世界の基軸通貨はアメリカのドルです。ドルを持っていれば世界中から欲しいものを手に入れることができますが、ドルを持っていない国・人は何も買えず自力で発展することもできません。ドルを持っている国だけの自由なのです。

また、日本の借金は世界で一番多いというのも真っ赤な嘘です。日本は世界で一番貿易黒字を積み上げている国です。政府は借金をしているのですが、そのほとんどが国内の機関投資家からのものです。銀行や保険会社や年金機構などが国債を買っています。しかし、この借金も全く心配する必要のないものです。というのは、銀行は信用創造と言って手持ちの現金の何倍もの貸出をしてもいいので、ほとんど無からお金を作り政府に貸しているからです。ただコンピューターに数字を書き込むだけで利子を貰えます。その利子は我々の税金から払われます。元々ないものを売ったり貸したりすれば誰でも詐欺罪で牢屋に入れられたり罰金を払わなくてはいけませんが、金融業だけはその詐欺をしてもいいという制度なのです。現代のマネーのほとんどはこうした帳簿上の数字です。硬貨や紙幣はほんの数パーセントでしかありません。国が国民通貨を発行すれば解決する話です。財源も心配いりませんし、借金も返せます。銀行に詐欺行為をさせなくてもよくなります。もちろん、ベーシック・インカム(国民配当)もできるようになるでしょう。さらには税金も基本的に廃止できるでしょう。家計や企業は収入と支出で成り立っていますが、通貨の発行権が国民の手にあれば国家に収入は必要ないのです。

また、利子という制度も全くおかしな制度です。この世の全ての物やサービスもエントロピーの法則で劣化します。米や野菜や果物も時間が経つと萎れたり腐ったりします。床屋に行って綺麗に髪を切ってもらってもすぐに伸びてしまいます。しかし、マネーだけは銀行に預けておくと増えるのです。今は利子で儲かるのはほとんど富裕層だけですから貧富の差は大きくなるばかりです。

昔マネーは金に替えてくれましたが、今は替えてくれません。ニクソンがドルと金の交換をやめたからです。つまり現代のマネーは何の裏打ちもないただの数字と言えます。言い換えればマネーは制度と考えるしかない時代になってきました。元々日本には「金は天下の回り物」と言われ制度という面もありました。藩札の発行が認められ、各藩の市場を活発にしていたようです。

また、国家は高度な分業によって成り立っています。農家は食べ物の自給はある程度可能ですが、さすがに車やパソコンは自給できません。その交換と分配をスムーズに行うために通貨という制度は不可欠なのです。つまり国家の一番重要な制度が通貨制度というソフトインフラなのです。それを銀行という私企業に丸投げして、利子という値段のついた商品にしてしまったのです。これは例えば道路の通行料を勝手に取る特権を持っているようなものです。

しかし、この銀行の錬金術と利子という制度ももはや風前の灯火になりつつあります。世界中の銀行が破綻しつつあります。もともとこの銀行資本主義ともいえるものは、棚からボタ餅・やらずぼったくりの莫大な富がなければ維持できない制度です。コロンブスが新大陸を発見した時から始まった現代の資本主義は、莫大な金銀財宝の略奪をその原資とし、土地はインディアンを追い払ってただ、アフリカの黒人を安く買って労働力もほとんどただで手に入れることで成立しました。その後は石炭・石油によるエネルギー源を使い科学技術による地球の植民地化で環境破壊という代償を払って莫大な富を得てきました。これがもはや限界に来ています。石油は地面から噴き出してくるのではなく莫大な費用をかけなければ手に入らなくなり採算が合わなくなっています。市場も飽和して新たな投資先が減っています。濡れ手で粟という投資先はもうありません。金融はギャンブル化し自滅しつつあります。そして人々の意識も変わってきました。フランスの黄色いベスト運動のように銀行システムこそが問題の根源であることに気付き始めました。

しかし、国民通貨への道は平坦ではなさそうです。銀行システムはイングランド銀行から始まっていますが、これは議会制民主主義や政党政治・マスコミなどの誕生とほぼ同時で密接な関係があります。国民を経済成長に動員するという意味では銀行システムを補完するものだったと思います。こうした組織からマネー改革の提案は出てきません。仮に出てきたとしても、政党通貨・省庁通貨になってしまう可能性もあります。これでは、現在の日本の最重要課題である食とエネルギーの自給・地方の衰退を解決することはできない。人々が直接発議・決定できる直接民主制を基本とした地方連合政府への構想も必要となってくるのではないでしょうか。そうした構想の中で首都圏を除外した国民配当で人口の分散を行い食や地方の再生に進む道も見えてくるのではないでしょうか。 なお、以上の考えはほとんど関曠野さんから教わったものです。以下の本も参考にしてください。 『グローバリズムの終焉』(農文協) 『なぜヨーロッパで資本主義がうまれたか』(NTT出版)