BIメールニュースNo.082  2011.1.22発行 バックナンバー

BIメールニュースNo.082  2011.1.22発行

【1】ケア(依存労働)を支えるベーシックインカム(BI)がなければ法と正義も空虚な存在!?

ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

【2】BIニュース  イランのベーシックインカムの続報

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私たち「ベーシックインカム・実現を探る会」は、政治的に中立の立場で、「すべての個人への無条件な所得の保証」というベーシックインカムを実現につなげる提言を発信します。

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【1】ケア(依存労働)を支えるベーシックインカム(BI)がなければ法と正義も空虚な存在!?

ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

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前回は、「POSSE」所収の萱野論文に対する批判ということで書きだしていたが、自然法とベーシックインカムの問題を考えるなかで、エヴァ・フェダ―・キティ著『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』(白澤社発行・現代書館発売)にふれたので、すこし萱野批判からは脱線するが継続して考えよう。キティは、『正義論』のロールズの批判を中心に論理を展開している。ロールズの論理の中心にある人間像というのは、自由で平等で責任ある選択のできる人間ということだが、その一見、まっとうに思える「自由」「平等」についてキティは、彼女の提案する「依存労働」という概念から「その『自由』『平等』って欺瞞じゃないですか?」という異議申し立てをしているのだ(このキティの指摘は、従来の自然法概念を拡張するものだ)。 人間は、みな「脆弱で傷つきやすい」存在であり、そのことが、人々の道徳的意識・義務の意識に強い影響を与え、その義務が社会や政治のありように大きく影響するという。そして、どのような社会も、子ども、病気や障がいのある人、介護が必要な高齢者などをケアする人がいなければ、まともな社会ではいられないともいう。キティは、ケアされる人を「依存者」ケアする人を「依存労働者」として規定して、ロールズらのとなえてきた「自由で平等で責任ある選択のできる人間」から両者とも排除されてきたではないかと指摘している。特に「依存者を世話する仕事・いとなみ」(dependency work)をする「依存労働者」の隠ぺい・無関心・道徳価値の引き下げが、「依存労働者」を搾取される存在にしてきたと強調する。「依存労働者」については、以下の注目される分析がされている。1、良いケアを受けたいとする「依存者」のニーズと「依存労働者」に対して支払われる市場からの報酬の不均衡、すなわち、市場では依存労働は十分に供給できない。2、依存労働は、女性にかたよって労働分配され、また、従順で愛情形成を促すような性的ふるまいを女性に強制してきたこと。3、「依存労働」が貧困女性や有色女性に強制されてきたことと、白人中産階級は、「依存労働」を担うことを理由に「有償労働」から排除されてきたこと。

上記のキティの分析のうちBIがらみで重要なのは、「依存労働」が「市場ではまかなえない」ということだ。そして「依存者」や「依存労働者」が尊重されない社会は、ケアの社会に対する必然的存在からみて持続可能な社会ではないのである。だとすれば、市場になじまない「依存労働者」をBIによって支え、そして、あらゆるケアの行為をBIによって支えることが、公正な社会の最低条件だということになる。

「依存者」や「依存労働者」を排除し隠ぺいすることなく、「自由で平等で責任ある主体」の欺瞞をあばいた先にある法と正義のありかたを求めること(ケア領域を排除した自由で平等な主体はありえないということ)。そして「依存者」や「依存労働者」が尊厳ある存在として生存できること。この二つの社会の基底部分に対してBIは必然的に必要なものなのだ。しかし、銀行マネーがおおいつくす世界経済には、世界全体のGDPの10倍もの負債が存在するとまでいわれている。こういう負債を生み出すマネーゲームを放置しておきながら、社会にとってなくてはならないケアの領域を支えるBIを「財源がないからユートピアだ」というのは「犯罪的言説」ではないだろうか?みんな、もっと怒っていいのだ。年末の関曠野さん講演会の冒頭の発言にもあった「BIの政治化」ということを熟慮して、BIを実現する運動をしたたかに・しなやかに持続していこうではないか。

<白崎一裕 氏 プロフィール>(第三土曜日執筆)ベーシックインカム・実現を探る会 代表。「とちぎ教科書裁判通信」 http://kazuhihi.blog39.fc2.com/

BS11動画映像 田中康夫 vs 白崎一裕 対談 http://bijp.net/data/article/182

12分レクチャー:白崎一裕「ベーシックインカムまるわかり」 http://bijp.net/data/article/145

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【2】BIニュース  イランのベーシックインカムの続報

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昨年来お知らせしているイランのベーシックインカムについて続報です。

昨年12月19日に、ついに「補助金合理化法」が実施され、価格抑制を目的としていた燃料や生活必需品への政府補助金を段階的に削減し、この補助金カット分を、すべての国民に、所得制限なく一人当たり月約40ドル給付されることが実施されました。

世界各紙で賛否を問わず、イラン史上最も大きな経済計画であることが共通して報じられており、ベーシックインカムというだけでなく、補助金漬けで浪費されていたエネルギー消費を抑えようというエコ的な価値観への転換という意義もあるようです。 http://www.energyjl.com/2011_folder/January/11new0105_11.html

また、補助金が充当された安いガソリンの密輸を防ぐ目的があったり、アフマディネジャド大統領の支持基盤である地方では物価が低いため、その支持基盤の強化という目的もあったりして、イラン独自の背景もあります。

燃料価格高騰を囃す記事もあるようですが、引き続き補助金が充当されるガソリンがあったり、車を複数台保有してガソリン使用量が多くなると補助金が充当されないガソリンを使用しなければならないなど、様々が配慮がなされているためか、トラブルもなく穏やかなスタートとなったようです。 http://www.middle-east-online.com/english/?id=43538

エコノミスト誌が大型記事を掲載していますが、批判的に捉えており、インフレ懸念などこの補助金改革で想定される問題点を指摘するにととまらず、独裁体制に言及するなど踏み込んだ批判をしています。 http://www.economist.com/node/17900396?story_id=17900396&fsrc=rss

まだ不明な点もありますので、引き続きこのニュースを紹介していきたいと思います。

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