だいじょうぶかな!? 橋下大阪市長のベーシックインカム ベーシックインカム・実現を探る会 代表 白崎一裕

 

堀江貴文氏(ホリエモン)のときもそうだったが、著名人がベーシックインカム(以下BI)を論じるとたちまちネットを中心に盛り上がるのが、BIの常だ。今回も橋下氏という人気政治家の「船中八策」なる政策プランにBIがとりあげられて、話題になっている。さて、中身はどうなんだろうか?

 

 

1、橋下BI論は従来議論の延長線上
橋下氏の政策原理は、行政スリム化を中心とした緊縮財政の延長にある。これは、シンプルな社会政策BIと相性がいい。また、堀江さんをはじめ、いままでのBI論もこのことは主張してきたところだ。年金・生活保護・失業保険などなどを統合するスッキリした現金給付としてのBI、それらにかかわる行政コストを削減するBI、行政の補助金などの行政サービス供給側の論理ではなくて、需要者(消費者、ユーザー)側に直接へ直接BI~~~。こういうことは、橋下さんの行政批判・公務員批判と合体して力をもつだろう。

 


2、行政批判が公を破壊する可能性
これまでの行政の無駄や補助金ズブズブの公共事業などは批判されるべきで、行政があたかも「公」の顔をしてふるまってきた構造は、大阪にかぎらず確かに問題なのだ。だが、その行政を批判することで「公そのもの」まで、BI導入を口実に葬り去るのは感心しない。公とは、地方や国家などの共同体が存続していくための事柄すべてであり、その中身は、みんなの公論で決めていくものだ。昔は、国家そのものが公だった国家主義の時代もあった。しかし、現在は公論で公のあり方を決めていく。たとえば、世界版の公論の結果による国際人権法からすれば、公のひとつに「国家の義務は、市民ひとりひとりの人権擁護」ということがあげられる。

 

 

3、BIで無駄な役所の仕事を一掃できるのか?
公論で公の仕事を決めていくとなると、かならずしも、BIがあれば役所の仕事がどんどん少なくなるか?というとそうではないだろう。民主党が導入した子ども手当の議論のときにも、手当(現金給付)よりも、保育園の増設・充実(現物給付)を優先させるべきだ、という議論があった。そこでも示されたように、公の仕事に含まれる多様な社会サービスは、BI(現金給付)と共に必要で、そこになんらかの予算措置が必要になる。橋下さんが主張するNPOなども単なる行政の下請け機関ではないとすると、そこに予算手当は必要になる。また、重度重複障がい者の電動車いすなどは300万円するものもある、こういう社会サービス的なものをBIだけで賄うのは不可能だ。

 


4、BI支給金額8万円の根拠
BI支給金額で議論される月額ひとりあたり8万円という金額の根拠は、これを算出した小沢修司さん(京都府立大学)によれば「月額8万円の根拠としたのは生活保護のうち生活扶助部分であり、教育扶助や住宅扶助、医療扶助などは除いている。それは、教育、住宅、医療など社会サービスの充実はBI実現とは別途図らなければならない~~」(「日本の科学者」2010年5月号)となっている。ここにあるように住宅などのベーシックニーズにかかわる社会サービスは、BIと両輪のように必要だということだ。

 


5、政治・行政の無駄はどこにあるのか?
橋下さんの主張は、公の顔をしてわがもの顔にふるまってきた行政批判としては、正しい面もあるが、けっこうみみっちい批判でもある。根本的な日本の無駄は、通貨制度そのものに内在していることを橋下氏は無視している。

 

たとえば、最近、日銀は、インフレ目標として資産買い入れ10兆円上乗せして65兆円とした。日銀は買いオペとして国債購入をすすめるというが、そもそもデフレ下の日本では、市中銀行にお金がだぶついていたのだ。そこで、地方銀行などは、だぶついたお金で国債などを購入して儲けていた。地銀の資産全体に占める有価証券の比率は26.8%で、そのうちの国債などの比率は45.9%もある。日銀の政策は、こういう無駄金を増殖させる資金供給をしているにすぎない。また、2002年の本四連絡橋の収支は、本来ならば、622億円の黒字のはずなのに、金利負担が1087億円もあったために465億円の赤字になっている(『シルビオ・ゲゼル入門』廣田裕之著)。この金利はどこへ支払ったのか?

 

橋下氏は、上記のような無駄金こそ問題にすべきで、そのためには、「通貨改革」が必須となるのだ。この「通貨改革」で政府紙幣を発行しなければ、BIと社会サービスの巨大な財源もでてくることはありえない。BIなどの財源は、せこい「増税」路線では、とうてい賄いきれないのだ。

 


6、橋下さんは、アメリカのノースダコタ銀行やスイスの広域地域通貨「WIR」を視察にいくべき。
「通貨改革」の見本が上記だ。もともと農民が設立した州立銀行ノースダコタ銀行の運営や地域通貨銀行として「WIR銀行」までも有する協同組合通貨のWIRなどは、まさに無駄を省いたみんなの幸福のための「公共財としてのお金」のあり方のモデルとなるだろう。


7、BIは、福祉国家の枠組みで考えない。
橋下氏の行政批判は、いまだ、過去の福祉国家批判の枠組みで考えているように思える。福祉国家改良原理としてBIを持ち出しているわけだ。その証拠に橋下氏は、BIをセーフティーネットと主張している。しかし、BIは、そもそも福祉国家とは別物として制度化すべきだろう。その原理は、ダグラスの社会信用論のように過剰生産と過少消費のギャップを埋めるということやヒレア・ベロックのように強制奴隷労働からの解放を求めて万人を有産者にする分配主義に求められるべきだ。加えて、高度福祉国家を支えてきた成長経済が終焉を迎えていることも付け加えておこう。「競争」が大好きな橋下さんだが、ピークオイルなどの課題、ポスト工業化社会の課題などは、ガンバル「競争」で克服できるような代物ではない。

 

8、「維新の会」で「船中八策」の矛盾
この名称問題を、どうでもいいと思う人もいるだろうが、けっこう今回の本質かもしれないので、メモしておこう。ミーハーな坂本龍馬ファンとしては、船中八策というのは、龍馬単独の作文かどうかはさておいても、龍馬が幕府後の新しい政治のプランを書いたものとして注目の文書だ。

 

龍馬の師匠筋にあたる勝海舟が「王政復古は薩長の『私』、大政奉還こそが『公』」と薩長に批判的なように、龍馬自身ものちの明治維新をつくりあげた薩長武力討幕勢力には批判的だった。船中八策には、まずは、みんなが議論する議会をつくるようなことが書かれている。龍馬周辺では、京都に議事堂をつくるプランがあったようだ。このように「維新」を実行した薩長軍事クーデター勢力と龍馬の「船中八策」は、実は、相容れない思想なのだ。NHK大河ドラマの福山雅治「龍馬」は「みんなが幸せになる国」を語るではないか。橋下さんもみんなが幸せになるような議論をしながら、みんなで決めていくこと(自治)を考えているのだろうか。もちろん!BIは、みんなのものである。

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